は湖水のように澄徹した碧空が、一筋横に入っている、中農鳥とおぼしき一峰を超えると、また一峰がある、日が昇るに従って、雲や霧は、岩と空の結び目から、次第に離れて消えて行く、葉を一杯に荷った楡《にれ》の樹のような積雲は、方々が頽《くず》れて、谷底へと揺落してしまう、そうしてその分身が、水陸両棲の爬行《はこう》動物のように、岩を蜿ねり、谷に下って、見えなくなる。
 空は高くなって、四方は壮大な円形劇場《アムフィセアタア》のように開展する……出た……出た……木曾御嶽は、腰から上、全容を現わした、木曾駒ヶ岳も近くに立ち上った、方々から頭を白く削った稜錐状《ピラミダル》の山々が、波のように寄せて来た。
 脚下の谷へ追い落された水蒸気の団々は、反曲の度を高めて、背を山に冷やさせ、顔を日光に向けて、ふわりと立って飛ぶ、それが長く繋《つな》がって、日を截《た》ち切ったかと思うとき、異常な光がチラリと岩角に落ちた、ふと見上げると、円い虹のようなものが、虚空の中に二輪も、三輪も結ばれた、その輪の中に、首を貫ぬいて五、六丈もあろうかと思うような、黒い巨人が、ヌーッと立っている、富士登りの道者のいう、三尊の阿弥
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