登り著《つ》くと南農鳥の最高点は、まだここではなく、五、六町も先にあることが解った、これから截《き》っ立った、ギザギザ尖った石が、堤防のように自然に築き上げられているところを伝わるのだ、偃松と、黄花石楠花の間を抜き足をして、やっと南農鳥山の二等三角測量標の下に来た、おそらく参謀本部陸地測量部員が、野営をした跡ではあるまいかと思われる、ちょっとした平地へ出た。
 ここから見ると、石の剣《つるぎ》の大嶺が、半円形にえぐ[#「えぐ」に傍点]られて、蜿蜒《えんえん》として我が日本南アルプスの大王、北岳《きただけ》に肉迫している、その北岳は、大岩塊が三個ばかりくッついて、その中の二塊は、楕円形をしているが、一塊は恐ろしく尖《とが》っている、そうして四辺《あたり》に山もないように、この全体が折烏帽子《おりえぼし》形に切ッ立って、壁下からは低い支脈が、東の谷の方へと走っている、能呂《のろ》川があの下から出るのだと、追及して来た猟師が、そう言ったが、実際私たちは、川などはどうでもよかった。
 もう山という山が、みんな顔を出して来た、地蔵岳鳳凰山を隔てて、八ヶ岳の火山彙《かざんい》が見える、上野《こうず
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