この大残雪を踏んで、南農鳥の傾斜を登ること半ば頃から、大なる富士山は、裾野から沙《すな》を盛り上げたように高く、雪が粉を吹いたように細い筋を入れている、その下に山中湖、それから河口湖が半分喰い取られたようになって、山蔭の本栖《もとす》湖の一部と、離れ離れに静かな水を伏せている、函根、御阪、早川連嶺などが、今の雨ですっきりと洗われて、鮮やかな緑※[#「靜のへん+定」、第4水準2−91−94]《りょくてん》色をしている、愛鷹《あしたか》を超えて伊豆半島の天城山が、根のない霞のように、ホンノリと浮いて、それよりも嬉しかったのは、駿河湾に黒煙をかすかに一筋二筋残して走っている汽船!
 黄花石楠花《きばなしゃくなげ》が、岩角の間に小さくしがみついて咲いている、その間を踏んで、登れば、千枚沢岳と悪沢岳の間に、赤石山が吊鐘《つりがね》を伏せたように円く立っている、支脈伝いに背面を見た時には、壮大だと思った白河内岳も、ここから見ると、可愛そうなほど、低くなって、下に踞《うず》くまってしまった。
 南農鳥の上に出た、足の下から大障壁をめぐらして、近く農鳥山の三角測量標を見たときは嬉しかった、しかし
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