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雄大なる白河内岳が、円く眼の前にボーッと立つ、この山を中心として、雲の大暈《おおがさ》が、幻のように圏《わ》を描いてひろがる、日輪の輪廓がひろがって黄色い葵の花のように、廻転するかと思われた。
風が錐《きり》のように痛い、白河内岳の麓で、焚火をしていると、おくれがちの人夫も、あとから追いついて来た、その中の一人は、雷鳥を捉えて来た、少しは休んだが、風と霧と冷たいのと痛いので、落ちつく空はない、とかくに気の重い人夫どもを促して、登りかける、実を言うと、どの方面へ向いて、何処を登っているのだか、もう解らない、人夫もみんな初めての途で、茫然《ぼんやり》しているばかりだ、ともかく眼の前の大山を登った、石片が縦横に抛《な》げ出されている、しかし石と石とは、漆喰《しっくい》にでも粘《く》ッつけられたようで動かない、いずれも苔がべッたり覆せてある、太古ながらの石の一片は、苔に包まれた古都の断礎でも見るように、続々と繋《つな》がって、爪先を仰ぐばかりに中天に高く斜線を引いている――もう白河内岳の上にかかっているのだ、この饅頭形の石山は、北アルプスの大天井《おてんしょう》岳にどこか似ていると思い
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