物の骨のようにゴロゴロ転がっている石の堆積――の上に立った、石はビッショリと濡れて、草鞋が辷る。
 朝明りか知らん大きな水平のひろごりが、足許に延されている、白い柔毛《にこげ》のような雲が、波の連続するように――したが一つの波も動くとは見えない――凸凹《たかひく》を作って、変化のある海が、水平線の無限に入っている、しかし正面は、霧が斜に脈を引いて、切れそうにもない、その間から彎弓《ひきゆみ》のような線が、幾筋となく泳いで出た、ハッキリすると土堤ほどの大きさになった、山である、関東山脈の一端と、早川連嶺の一角とだけが、おぼろに見えたのである、山と山との間は、みんな空席で、濃厚な水蒸気が、その間に屯ろしている、山という山の各自は、厳しく守られている、生物は守られていない。
 雲は凍っているのか、吐息を凝らしているのか、巨大の容積がしずまり返っている。
 その深さが何万尺あるか測られない、この中に何か潜力的《ポーテンシアル》な、巨大な物が潜んでいる、そうして生物を圧迫する――化性《けしょう》の蝙蝠《かわほり》でも舞い出そうだ。
 あの底には、もしくは外には、都会がある、群集がある、燈火《とも
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