されるように混んだ、肘《ひじ》と肘と触れ、背と背と合された人々が、駅ごとに二、三人ずつ減る、はてはバラバラになって、最後の停車場《ステーション》から、大きな、粗い圏《わ》を地平線に描いて散った、そうして思い思いの方向へと往《い》った。
鳶《とび》のように、虚空へ分け入ったのは、私たちである、あれから五夜で、私たちは海抜八千尺ほどの、甲州アルプスへ来た、山の上には多年雪に氷に磨り減らされて、鑢《やすり》のように尖った岩が、岩とつづいて稜角《リッジ》がプラットホームのように長い、甲府平原から仰いだ、硬い角度の、空線《スカイライン》の、どれかの端を辿《たど》っているのだ、何万という、下で寄り集まった眼球がみんな私たちを仰向いているような気がする、その稜角の窪んだ穴の中に、頭を駢《なら》べて、横になったのが、私たち四人――人夫を合せて八人――偃松《はいまつ》の榾火《ほだび》に寒さを凌いで寝た。
霧が夜徹《よどお》し深かった、焚火の光を怪しんで、夜中に兎が窺《うかが》い寄ったと、猟師は言ったが、私は寝ていて知らなかった、草鞋《わらじ》も解かないで、両足をとろとろ火に突っ込んで、寝ていたとき、
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