に、私たちの金剛杖を、三本組み合せ、それへ縄を下げて、鍋を吊り、偃松の枝や根を薪材にして、煮炊《にたき》をするのだ、山頂の風雨とはいいながら、焚火さえあれば、先ず生命に別条がないということを知っているから、連中懸命になって、薪材を山のように搬《はこ》んで、火のそばへ盛り上げたものだ、それでも凍えてはならないと、有りったけの衣類を出して衣《き》た、困ったことには雷鳴がいかにも強い、頭上五、六尺のところを、転がって行くようで、神経がピリピリするから、鉈でも、眼鏡でも、鉄物《かなもの》は、凡《す》べて包むことにした、雨は小止みになったり、また大降りになったりする、大降りのときは、油紙の天幕の中央が、天水桶のように深くなって、U字形に雨水の重味で垂れ下る、今にも底を突き抜きそうであるから、連中底の下から手で押し上げると、雨水は四隅から迸《ほとばし》って、寝ているところへ流れ込む、空鍋を宛てがって承《う》けたり、茶碗で汲みこぼしたり、騒ぎが大きい。
面白そうに笑って作業をしながらも、天外の漂流者という孤独の感が胸に迫る。
鼠色の印象(暴風雨前の富士山及び白峰山脈)
汽車の中は、蒸
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