ヤマウスユキソウ、チングルマなどがあったが、風と霧と雨の中で、一々眼に止めていられない。
それでも石の河原のような小隆起を、二タ山ほど盲越えに越えた、高頭君はウラジロキンバイが多いと、指して驚いている、この高山植物は、白馬岳や八ヶ岳に産したものだが、今濫採されて、稀少になったものだそうで、今のところ、ここが最も豊饒《ほうじょう》な産地であろうと語られた。
未だ時間はあるが、もうこの天候では泊まるより外はないことになった、路側の窪んだところに、猟師でも焚火したと見え、偃松の榾《ほだ》が、半分焦げて捨ててあった、その近傍の窪地を選んで、偃松と偃松との間に、油紙を掛け渡し、夜営地を張り、即刻焚火をした、手でも、足でも、寒気に凍えて、殆んど血が通ってるとは思われない、晃平たち案内者は、さすがに甲斐甲斐しい、蓆《むしろ》に雪をどっさり包んで、担い梯子でしょって来て、それから薬鑵《やかん》の中で、湯を作る、茶を煮る、汁粉を作る、雪の臭いを消してうまかった、晃平は雨の小止みを待って、雷鳥を銃殺して、羽毛を※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》って、肉を料理する。
油紙の天幕の中
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