木のように、いじけて、それでも森厳として、太古ながらの座席を衛《まも》っている、そして片唾《かたず》を飲んだように、静まり返っている。
虚空の領分へ、人間が入ったときには、霧の使者が、先ず出迎えに来る、――先刻|※[#「口+耳」、第3水準1−14−94]《ささや》き合った、それだ、小雨のそば降るように来た、一行の中には偃松を見て、引き返すような男はいない、しかし素《も》と素《も》と、路でないところへ割り込んで来たのである、白檜の林はともあれ、偃松の犇々《ひしひし》と隙間のない海原へ入っては、往くことも戻ることも出来ない、晃平は、鉈《なた》で偃松を切ッ払い、切り落し、辛うじて路を作った、私は先登になった、偃松の大波に揺り上げられながら、岩のあるところを目懸けて、縋《すが》りつく、倉橋君も、それから少し後れて、高頭君と中村君とが、みんなこの蒼玄《あおぐろ》い波に、沈没したり、浮き上ったりして、つづいて泳いで来た、敢えて泳ぐという、足が土に着かないからだ。
岩の上には、浦島ツツジ、ツガサクラ、コケモモなどが、平ッたくしがみついている、私は岩角に身を倚《よ》せて、眼下遥かに低い谷底を見た、
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