鳥はひんから、ひんからと啼く。
 傾斜が次第に急になる、白檜も段々小さくなる、谷々の風が吹き荒《すさ》んで、土をくずし、樹を吹き折り、上から押し流すので、傾斜がなお急になるのであろう、また一筋の路が深林の中を横ぎっている、何でも奈良田《ならだ》の人が、材木を盗伐するために、拓いたので、この道は広河内《ひろこうち》から一里半の上、池の沢というところから初まって、奈良田から四里もあるという、白河内《しろこうち》の谷まで切ってあると、晃平は語った、唐檜の伐り痕の、比較的新しいのは、それかも知れない、彼らは盗伐して、板に挽《ひ》いて、曲げ物のように組んで、里へ出すのである、林務官などが殺されたりするのも、こういう路で、不意に盗伐者に邂逅《かいこう》するときである、野獣のような盗伐者は、思慮分別もなく、牙《きば》を咬《か》んで躍りかかり、惨殺して後を晦《くら》ましてしまうのである。
 白檜の丈も、四、五尺になった、山の頂は直ぐ額の上にあるかして、水分を含んだ冷たい空が、俄にひろくなる、樹影に白い花が、チラリと見えた、誰が叫ぶとなく、石楠花《しゃくなげ》石楠花という声が伝わった、そりゃもう登山家《
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