犠牲を、要求されているかは、河原の荒涼粛殺を見たまえ。性《しょう》なきまでに白げられたる、木の骨――というより外に、与える名がない――と、砂に埋まれた楕円石や、稜角の鋭いヒイラギ石やは、丁度、人間の屍骸が、木乃伊《ミイラ》となって、木偶《でく》か陶製の人物か、区別が見えないと同じように、原性を失って、唯一自然の平等相に復帰している。そのいたましい最後の均一!
私たちは、互に、言語もなく、眼と眼とを見合せて、すさまじい荒廃の姿に顫《ふる》えた。
森谷沢《もりやさわ》という一筋の小川が、左から流れて、落ちるところあたりから、谷というよりも、沢の方へ近くなり、両側の山の頭が低くなって、天が俄に高くなった。これらの山を踏まえて、農鳥《のうとり》山の支峰、白河内《しろこうち》岳が、頭を出す。名にし負う白峰、赤石、両大山脈が、東西に翼をひろげて、長大の壁をたてめぐらし、互に咫尺《しせき》する間に、溝のように凹まった峡谷は、重々しい鉛色の空であるから、まだ一時半というのに、黄昏のように、うす暗い。前夜の小舎よりは、二里の余も来たろう。
とうとう大雨が降って来た。私たちは、森の下蔭に身を潜めて
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