の濶葉が傘のように高い。ドウダンツツジの葉と、背向きになって、翠《あお》い地紙に、赭《あか》っちゃけた斑《ふ》が交ったようだ、何枚も、何枚も、描き捨てられた反古《ほご》のような落葉が、下に腐って、半ば黒土に化けている。
 また河原へ出た。もう時刻だから、紫の風呂敷を開ける。矢車草の葉包が釈《と》かれて、昼のものが腹に入った。空は、もう泣き出しそうになって、日の眼を見ないから、手が凍《こご》える。焚火《たきび》に暖まっていると、きょうは、七月の二十三日だのに、という声が、一行の中から洩れた。
 それから、幾度も川の水を避けて、森に入ったり、河床へ下りたりする。森の枯木は、白く尖って、路を塞いでいるので、猟師は、先登に立って、鉈《なた》で切っ払う。太い、逞ましい喬木でも、心《しん》が朽ちているから、うっかり捉《つかま》ると枝が折れて、コイワカガミや、ミヤマカタバミの草の褥《しとね》へ俯《のめ》ったりする。また、幹には苔が蒸して、皮は土より柔く、ぼろぼろに腐っているから、生あるものの肌のようで、ぬらりと滑り、ぐちゃりと触れて、いやな気持がする。
 谷は、益《ますま》す迫って来る。手を伸し合う
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