門次の語るところに依ると、雪の下は大小の石塊ばかりで、雪解けがしたら、却って歩きづらくて堪まらないということだ。その雪には花崗の※[#「雨/毎」、104−17]爛《ばいらん》した砂が黄粉《きなこ》のようになって、幾筋となくこぼれている、色が桃紅なので、水晶のような氷の脈にも、血管が通っているようだ、雪の断裂面は山から吹き下す風のためであろう、何か巨大な爪で掻き※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]ったような、掌大な痕を印している。
高山植物も、未だ芽組《めぐ》んだばかりというところで、樺の青味を除けば、谷一面、褐色と白色とに支配せられている、谷は莟《つぼ》んでいる故か、思ったより暖かなので、中岳と仮に名をつけた小隆起を屏風にして、小休みをする、赤沢岳は三十度以上の傾斜をして、岩石の赤い筋と雪の白い斑とが、燃えるような、沈むような光り方をしている、あとから重そうに荷を担いで来る人夫も追いついて、一と塊になって休む。
上り初めると蝶ヶ岳が見える、この山もそれに続く熊村岳(宛字)も、谷から渦まき※[#「風+昜」、第3水準1−94−7]《あが》る飛沫《しぶき》のような霧に、次第に包
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