森林の底に没している。
 雪のおもてには枝の折片が刺されていたり、泥土が流れていたりして、いかにもうす汚ない、白馬岳の雪の美しいことは、こんなものでは無いと、高頭君がしきりに説明してくれる。
 谷が狭くなって、崖側を行くと、緩いながらも雪の傾斜で辷るから、ミヤマナナカマドの枝を捉えながら上る、前にも増した雪の断裂で、草鞋《わらじ》に踏み蹂《にじ》った雪片は、山桜の葩弁《はなびら》のように、白く光ってあたりに飛び散る。
 奥赤沢の切れ込みへ来ると、雪は庖刀《ほうちょう》を入れたように并行に断裂して、その切截面の高さは、およそ二丈もあろう、右へ除け左へ避けて、思わずも雪の薄氷の上を行くと、パリパリと氷柱《つらら》が折れるような音がするので、足下を見ると、大きな穴があって、その穴の蓋の雪が、七八寸の厚さしかない、金剛杖で敲くと、パリッと音がして、崩れ落ちる、穴の下では溶解した水が、渦を巻いている。
 前面には阜《おか》のような山が二つ、小隆起をしている、赤沢岳頂上の三角点も、大空を指さしている、谷は次第に高くなる、高くなると共に蹙《せ》まって来て、雪の蜿《う》ねり方も、波のように烈しいが、嘉
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