の生地が梨の肌のように白く、下は解けて水になっている、その水の流れて行くところは、雪の小さい峡間《はざま》を開いて、ちょろちょろと音をさせている。
右の方を仰ぐと、赤沢岳が無器用な円頂閣のように、幅びろく突ッ立って、その花崗岩の赤く禿げた截断面が、銅の薬鑵《やかん》のような色をして、冷めたく荒い空気に煤ぶっている。
雪は次第に厚く、幅が闊《ひろ》く、辷りもするので、人の鳶口に扶《たす》けられて上った、雪のおもては旋風にでも穿《ほ》り返された跡らしく、亀甲形の斑紋が、おのずと出来ている、その下には雪解の蒼白い水が、澄みわたって、雪の崖から転げ落ちたらしい大石に、突き当って二派に分れ、呟きながら走って行く、大きな削り板のような雪が、継ぎ目から二ツに截り放されたようになって、平行に裂けて口を明けているのもある。
顧れば峡間から東方の霞沢岳連峰の木山には、どす玄《ぐろ》い雨雲が、甘藍《キャベツ》の大葉を巻いたように冠ぶさって、その尖端が常念一帯の脈まで、包んで来ている、雪の峡流は碧い石や黄な石をひたして、水嵩《みずかさ》も多くなって、樺青く雪白い間を走って行くのが、遙かに瞰下されて、先は
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