小さい雪の班点まで、洩《も》らされなかったのであるという。
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白峰より彼《かの》鳥を奪わば、白峰は形骸のみとならんとまで、この頃は飽かず、眺め居候《おりそうろう》、……白峰の霊を具体せるものは、誠にこの霊鳥の形に御座候、前山も何もあったものにあらず、東南富士と相対して、群山より超越せる彼巨人の額に、何ものの覆うものなく、露出せる鳥の姿、スカイラインよりは、僅《わずか》に一尺も低かるべきか、農鳥の農の字が平野的にて、気に入らず、また決して鶏とは見えず、首長きところよりも紛《まご》う方なき水鳥に候、埴輪の遺品に同じ形の鳥と見給うべし、水掻きまであり、高さここより見て、一間も候べきか、甲府附近を、最も観望宜しき場処と存候。
誠に晩春より初夏へかけ(ここの赤裸々となるは、夏期わずかの間に候)最も歴々と仰がるべく、夏にても、形は明確に、白雪山を埋むる今にても、こを恋人とせる小生の目には、同じ雪に蔽《おお》われながらも、この鳥形のみは粗き[#「粗き」に傍点]山の膚(元より白色)の中に、滑らかに平に[#「滑らかに平に」に傍点]浮び出で居候が、認められ候。
白峰の壮観は、空気澄
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