越後には最も多い、妙高山の「農牛」は、甲斐鳳凰山(実は地蔵岳の方にあるので、牛は首を北に向け、尾の方を少し高くしている、甲府から見て、一間位の大きさに見えるそうである)と同じであるし、焼山の蝙蝠《こうもり》は、糸魚川《いといがわ》方面からは、分明に見えるというし、米山に鯉があらわれると、魚が漁《と》れないという諺もある、頸城《くびき》郡の黒姫山の寝牛、同じく白鳥山の鳥など、雪の国だけあって、山と雪の関係は、何か神話の材料にでもなりそうである。友人辻本工学士に拠ると信濃越中の国境に聳えている祖父《じい》ヶ岳は、「種蒔き爺さん」が笊《ざる》を持った具合に現われるので、山腹雪解の頃、偃松《はいまつ》が先ずその形に蔓《ひろが》って、出るのではないかという話である、偃松の仲間入は最もおもしろい。
農鳥山の鳥形の美《うる》わしいことを、自分に説いてくれたのは、前に引合に出した友人N君である、N君は早稲田文科の出身で、創作に俊秀の才を抱きながら、今は暫く峡中で書を講ずるの人となっている、自分はN君の通信から、ここに二通を抜く、殊に手紙に添えて、送られたN君のスケッチは、頗《すこぶ》る緻密なもので、
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