う、衣に織ったらばさぞ、と考えたことがある。
 白峰は幾峰にも分れている、が殊に北の三山、北岳、間《あい》の岳《たけ》、農鳥《のうとり》山は高さにおいて、姿態において、白峰全山脈を代表している、その中でも農鳥山の名を忘れてはならぬ、一体甲府辺の人たちは、春の田植えや、また秋の麦蒔きなどを、「農をする」といっている、この二期には、山の雪が消え残ったり、また積もり初めるときで、綿の入った厚い峰の白妙衣《しろたえ》が、綻《ほころ》び出したり、また縫い初められる、そのとき鳥の形が、農鳥山の頂上より、直下、少しも左右に偏することなく、胸壁の上に印せられるので、この鳥形が見え初めると、農にかかるから、農鳥山の名を獲たともいう、殊に晩春から初夏へかけての鳥形は、実に分明なるものであるという、「農鳥」というのは、鶏の義であるそうだが、事実残雪は、鶏とは見えない、無風流な農夫は、自分に説明して、シャモの雄《お》ン鳥《どり》の立っているようで、段々雪が融けると、尾が消え、腹が※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》られ、耡《すき》のような形をして、消えてしまうと語った、白い鳥は消えても、注意
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