チ(かけす鳥)の声は、原始的に森林を愛慕する叫びを思わせる、私は一昨年|独逸《ドイツ》の陸軍少佐で、スタインザアという人と、この温泉宿で、一緒になったが、この人は森林国の独逸人だけあって、森林を愛することは、祖国のようである、独逸の山岳会員で、二十年間登山をしているのだそうで、四十三歳になるが、いまだに無妻でいると言っている、何でも財産を山に使い果すつもりだそうで、槍ヶ岳に登って下りて来たところであるが、ちょっとした露出でも、樹木のないところは、山が剥げてしまって、回復は容易に出来ないと言っていたが、上高地に来て、森林の下を逍遥したときには、これこそ真に日本アルプスであると言って、帽子を振って、躍《おど》り上っていたそうだ、その森林は今|安《いず》くに在《あ》る。
日本山岳会の名誉会員、ウォルタア・ウェストン氏は、かつて欧洲アルプスと日本アルプスとを比較して、日本アルプスに欝葱《うっそう》たる森林の多いのを、その最も愛すべき特徴としていた、同氏が穂高岳に登ったとき、あの森林の梢と梢との間に、ハムモックを吊って、満身に月光を浴び、玉露に濡れた一夜の光景を、私に語ったこともあったが、その
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