、北寒地方の雪といえども、これらには辛うじて匹敵し得られるに過ぎまい。
 しかしながら山岳の雪は、ただその美観によって研究される価値あるばかりでなく、造山力を有する動作から言っても、雪それ自身の特立した状態から言っても、また生物を保護する恩恵から言っても、興味があるから、以下にこれを説く事にする。
 試《こころみ》に諸君と共に、郊外に立って雪の山を見よう、雪が傾斜のある土の上に落ちると、水のように低きに就く性質を有するから、山の皺や襞折《ひだ》の方向に従って、それを溝渠として白い縞を織る。平生はあるとも見えぬ皺が、分明に出来る。そればかりではなく、空線の遥か遠くに、白い頭が方々に出るので、あんな所にも山があったのかと初めて気が注《つ》く。また山の頭のギザギザは、白くなったために、輪廓がハッキリして、一本一本の尖りまで見える。
 白い山に碧い空は、最も対照の美なるものである、或植物学者が花の色の最も眼にハッキリ見えやすいのは、緑の葉で包まれた白い花である、と言ったが、碧い空で包まれた白い山も、同じ視線を惹《ひ》くのである。それに反して紫の山となると、碧い空との区別が朦朧としてしまう。その
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