ちる雪の量が、次年の夏に悉く(でなくともほぼ全体)消費される地線を指すので、一年または数年の経過を含めてのことである。――高山の中腹では、この雪線を境としてその上に雪が堆積して、万年雪となり、その万年雪の一部が氷河の運動を起して、徐々《そろそろ》と下落し、遅かれ早かれ、融解するのである。
 但し花崗岩や片麻岩質の、石が硬くとも分解しやすい山(日本南アルプスの駒ヶ岳山脈や、関東山脈の西端、甲武信三国境界附近の、花崗岩塊にこの種の高山が多い)は、岩石大崩壊のために遠望すると白くなって雪と紛《まぎ》らわしいが、久しく空気に晒《さら》されているので、雪に比べると晶明な光輝が乏しいので、あまり遠からぬ距離からは、容易に区別される。
 かかる高山の雪は、何時《いつ》頃降るだろうか。
 一体高山の初雪というのは、改まった暦の初めに降るという意味なのでなく、雪の消滅時季なる夏を通過してから、後に初めて降る雪を言うのである。故に一月元旦に降ったからとて、必ずしも初雪とはいわず、前年の九月や十月頃に降った方のを、かえって初雪と称する。それも山に常住して言うのではなく、遠望して言うのだから、世に報告された初
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