a という藻が生えて、雪を青色または菫色に染めることもあるそうであるが、日本アルプス地方では、私は未だそういう雪を見たことはない。(紅雪を標品として採集するには、雪と共に瓶の中へ入れ、フォルマリン薬を臭気強いまで滴下して置けば、雪は無論溶けるが、藻は保存が出来る、ただし紅色はやや久しいうちには、全く失われるが、学術標品としては差支えないのである。)
さて新雪について言うと、低地の気温の高い所で、密集した雲が雨となるように、山岳の高寒地のそれは雪になる、しかし今まで降っていた雪が、低い空気層に入ると、忽《たちま》ち雨と変わることは高山を上下する人のよく遭遇する所である。こういう時、下りて見ると、麓の草原は雨の雫で緑がシットリと輝くのと対照して、山の新しい雪が、キラキラと雲母のように光って、雪と雨とを区別する境界線が、山の中腹に引かれている。これはいわゆる雪線で、よく新聞の電報欄に、昨夜何山の何合目まで降雪ありという、その何合目が即ち雪線に当るのである、しかし地理学で普通に言う雪線もしくは恒雪線などいうのは、そのように雪の供給と消費が、一時に精密に平均する地点を意味するのでなくて、年々落
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