、臀《しり》や脛《すね》をむき出しに、寝そべっているところを描いたのがあったが、延《の》んびりとした大陸性の、高原に引く一筋路を、澄み切った大空の下に、おそらく、ガタピシと石ころに蹴《け》つまずきながら、走って行く一台の馬車は、漂泊の姿そのもののように、一抹《いちまつ》の旅愁を引くのに充分であった。
 それは、カウボーイの土地である。未だ草分け時代の空気が、澱《よど》んでいる。石と打《ぶ》つかっても、林に這入《はい》っても、人と自然が肉迫するときのいきりが立っている。そのすべてを超越して、美しいものは、この山の隆々たる肉塊である。新火山のことだから、土の締まりは、しッくりしていない、むしろ危ッかしいほど、柔脆《じゅうぜい》の肉つきではあるが、楽焼《らくやき》の陶器のような、粗朴な釉薬《うわぐすり》を、うッすり刷《は》いた赤《あか》る味《み》と、火力の衰えた痕《あと》のほてりを残して、内へ内へと熱を含むほど、外へ外へと迫って来る力が、十方《じっぽう》無障碍《むしょうげ》に放射することを感ずる。絶頂の火口は、今こそ休火山ではあるが、烈々と美を噴く熔炉になっている。その美の泉を結晶したものは
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