、絶頂から胸壁へと、こびりついているところの、氷河である。汽車の窓からも、その中の最大(といっても長さは二|哩《マイル》半位しかないが)のホイットニイ氷河が、銀流しに光っているのが見える。そうして鉄路の附近に、氷河湖の跡が乾《ひ》からびて、今は青草の生えた牧場になって、牛が遊んでいる。その辺の農家の石垣は、氷河の推《お》し流した堆石《たいせき》を使ったりしているのが、私たち富士山で、万年雪を物色したり、日本アルプスで、「カアル」の痕《あと》を、氷河時代の遺蹟か否《いな》かと、論じ合ったりしている手合いに、いかに珍しかったろうか。
その氷河で思い出したが、私が桑港《サンフランシスコ》にいるとき、一九二四年九月十八日の夕、新聞の号外売りが、声高く「ラッセン火山大爆裂、シャスタ氷河大融解」と、大の字|尽《づ》くしで呼んでいるので、耳寄りに思って買って見ると、いかにもシャスタ山の、氷河融解、大洪水来と、拳《こぶし》大《だい》の活字で見出しがついている。それは同日附け、ダンスミールからの電報で、「シャスタの南東頂上が欠損《けっそん》してマック・クラウド谷が吹き飛ばされ、谷の痕跡《こんせき》が、
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