焦《こが》すばかりに、近く聳《そび》えている。足許《あしもと》一面に、熔岩や、焼石が狼藉《ろうぜき》して、歩きにくい。生憎《あいにく》時計を見ると、かれこれ午後二時に近い、空気も稀薄になり始めて、絶頂まで、遅々《ちち》たる足取りでは、今夜中にホテルまで、戻り得られるか否かも、覚束《おぼつか》ないので、ここから下山することにした。
シャスタへの登路は、氷河踏査を主とするならば、私たちの路を取らずに、南のマック・クラウド村から登るか、またはやや北行して、シャスタとシャスチナ間の、窪地《くぼち》を目指《めざ》して登る方が、よかったということを、後から聞かされた。後の路を取れば、九千尺の高度から、ホイットニイ氷河の末端が出現して、「クレッヴァス」や、堆石の状態がよく判明するということであった。
登山記としては、これだけだ。短くして、呆気《あっけ》ないのは、私も知っている、しかしシャスタ山は、我が富士山の如く、登る山であるが、同時に眺望する山だ。この山を中心にして、周囲の展望は変化する、大空へ掛けた額面として、横から見たり、裏返しに見られる山だ。
私は、その後、幾回となく、山麓を通過した、
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