り去ってはならぬ」
と。しかし、思いに悩んだ、その青年は、諦《あきら》めても、あきらめても、容易にそれを、あきらめきれなかったのです。
その夜、深更、ひそかに、彼はかの巨像が立てられてある部屋《へや》の中へ忍びこんで行きました。そこには、円《まる》天井の高い窓から、蒼白《あおじろ》い月の光がさして、白い紗に蔽われた森厳な巨像は、銀色に照らされていました。
幾度も、幾度も、ほんとうにいくたびも、ためらった後、とうとう彼は意を決して、その蔽いを、とり去ってみたのです。
みたものは、果たしてなんであったでしょうか? 翌朝《あくるあさ》、人々は白い紗に蔽われた巨像の下に、色青ざめて横たわる一人の青年の、冷たい屍《しかばね》を見出しました。かの青年がみたもの、かの若者が経験したもの、彼の舌は、永遠にそれを語らなかった。
「正しからざる方法によって、真理を捉《とら》えんとしても、それは結局、無駄《むだ》な骨折りに過ぎない」
と、最後に詩人は教えています。
けだし世に、真理を尋ね求める人はきわめて多い。しかし、それを探し求め得た人は、またきわめて少ないのです。私どもは、決してかの青年であ
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