があります。それはたしか、シルレルの書いたものだと思いますが、「蔽《おお》われたザイスの像」という話です。
 真理への思慕[#「真理への思慕」は太字] その昔、知識に餓《う》えた一人の青年がありました。彼は真理の智慧を求むべく、エジプトのザイスという所へ行きました。そしてそこで、彼は、一所懸命に真理の智慧を探《さが》し求めたのでした。しかし、求める真理の智慧は容易に索《もと》め得られませんでした。ところが、ある日のこと、彼は師匠と二人で、静かな、ある秘密の部屋の中に坐《すわ》ったのでした。そこは白い紗《しゃ》に蔽われた、一個の巨像が、森厳《しんごん》そのもののように立っていたのです。その時、青年は突然、師匠に対《むか》って、この巨像が何者であるかを尋ねました。
「真理!」
 それが師匠の答えでした。これを聞いた青年は、おどろき、かつ喜びました。そして、思わず、
「つね日ごろ、自分が尋ね索めている真理は、ここに隠されていたのか」
 と叫びました。
 その時、師匠は厳《おごそ》かに青年にいいました。
「神自らが、この蔽いを、脱《ぬ》がせ給うまでは、決して、人間の浄《きよ》からぬ罪の手で、取
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