したのに、碁石を二つやつたりする。冷静に考へると、そんなバカな話はないのであるが、夢中になつてくると、さういふことは間々あつたものである。その当時、黒川徳三郎四段や、上田|愛桂《あいけい》四段などは、よくその芝兼さんのお客にされてゐた。
 余興にやれば、なかなかに面白く、また力もつくものである。
 たゞ、あまり面白いから、はじめると凝るおそれがある。凝つてはいけない。浅草の魚伝《うをでん》の主人がこの手数将棋に凝つて大分入れあげたやうであつたが、芝兼さんには叶《かな》はなかつた。
 芝兼さんの他に、手数将棋の強かつた人に、京橋八丁堀の袋物屋の主人で中村といふ人がゐた。この人は攻める方で、耳が遠く、きこえるのかきこえないのか、トボけたやうな感じで、一手さしても石をなかなか渡さないのである。やはり、夢中になつてゐたりすると、守る方では石を取りそこなふやうなことが出来てきたりして、退治されてしまふのである。
 しかし、この手数将棋は繰りかへしていふやうに非常に興味の深いものであるが、やはり攻める方と守る方とであまり段がちがひすぎると面白くない。平手《ひらて》同志くらゐでやると、賑《にぎや》か
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