り取れば、その下に必ず「やつか」の石群《いしむれ》があるのである。円の面が定まれば、その円周に沿うて竹簀が下ろされる。魚の逃げ去るのを防ぐのである。斯様にしてから、湖底に積まれた石は、「まんのんが」(万能鍬?)と称する柄の長い四つ歯の鍬によつて、一つづつ氷の上へ掬《すく》ひ出されるのである。掬ひ出された石は、濡れるといふよりも凍つてゐるといふ方が適当である。水面を離れる石が氷上に置かれる頃は、もうからからに凍つてゐるからである。凍つた石が、終りに黒山を成して氷の上に積み上げられる頃は、「やつか」の底には青藻と共に揺れ動いてゐる魚族がある。日が射せば水底に簇《むらが》り光る魚の腹が見える。魚族は逃げ場を失つて竹簀に突き当る。竹簀には、所々、魚を捕へるための牢屋(うけ[#「うけ」に傍点]ともいふ)といふものが備え付けられてある。これは、一旦これに入つた魚の二度と外へ出られぬやうに備へられた竹籠であつて、魚族は終りに、多くこの牢屋の中へ入つてしまふのである。朝早くから氷上に立つて、牢屋の中へ魚が納るまでには、短い冬の日が一ぱいに用ひられるのであつて、竹簀をあげて魚を魚籃《びく》の中へ捕り入れ
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