わかりになりますまいからこれからその実例を述べようと思うのですが、それが又、今晩の主題たる怪談とも縁故があるのです。
私は花柳病《かりゅうびょう》を専門として開業しましてから、二年目に妻を迎えました。私が二十五、妻が二十一でした。こうして、白髪の生えかかった今でも、怪談や探偵小説が好きですから、ましてその頃は至って冒険的精神に富んで居《お》りました。似たもの夫婦とでも言いますのか妻が又大の冒険家で、いっそ二人で映画俳優にでもなろうかと相談しあったことさえありましたが、その頃は現今《いま》とちがって、日本の活動写真界は極めて幼稚なもので、到底私たちの希望に叶いそうもありませんでしたから、無論その話は沙汰止みになりましたが、只今は、子供が五人もあって、妻などはすっかり冒険的精神をなくしてしまい、私だけが、多少まだ冒険心を残して居るに過ぎません。
さて、結婚して半年ほど過ぎたある日のことです。夫婦生活も半年に及ぶと、少くとも私たちのような冒険好きなものに取っては聊《いささ》か倦怠を覚えざるを得ませんでした。その倦怠を覚えかけたところへ、二十五六になる一人の男が診察を受けに来ました。診察の
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