んで、沢に同情し、遂に友江さんを、土蔵の中に監禁すると言い出しました。沢は始め反対しましたが、結局信之の言葉に従って、友江さんを土蔵に押しこめました。けれど、沢は深切に友江さんの面倒を見ました。土蔵の戸の鍵は沢が預って居て、友江さんの食事も土蔵の掃除も沢がかかりきりでしたが、信之は、友江さんを監禁してから、一度も見舞に行きませんでした。自殺の虞《おそれ》あるものを、土蔵に監禁するなどということは、随分危険な話でしたが、沢に心を奪われた信之は、今では、結局、友江さんが自殺でもしてくれたらいいと思ったらしいのです。
 ところが、運命というものは誠に皮肉なもので、始め憂鬱状態にあった友江さんは、段々病が進むにつれて発揚状態にかわりました。多分妊娠の進んだせいもありましょう。従って近頃では自殺どころか、頗《すこぶ》る陽気になって、時々、土蔵の中から彼女の歌う声が洩れることさえありました。然し庭が広いので、余所《よそ》へ知れる心配はなく、実際友江さんが、家続きの土蔵に監禁されて居ることを知って居るものは信之と沢の外には一人もありませんでした。
 さて、友江さんが土蔵に監禁されると、広い家には、信
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