中が出かわって雇われて来ました。彼女は名を沢と言って相当な美人で、一見すると良家の子女のように見え、年は友江さんより一つ二つ上らしく、非常に気転がききましたので、信之は沢によっていつしか心の虜にされてしまったのです。実際、この女中が後に信之の身を滅ぼす因《もと》になりましたが、細君に持ちかねて居るところへ、細君よりも、はるかに世間的知識に富んで居る女があらわれたのですから、やがて、どんなことが起るかは皆さんにも大方想像されるだろうと思います。而《しか》も、これまでの女中は、信之が言い寄ると、みんな、すぐ様暇を取って帰って行ったのに、沢は逃げるどころか、却って彼に対して一種の好意を見せて居るようなので信之の心はすっかり掻き乱され、彼の沢に対する恋は日に日に猛烈になって行きました。
すると、友江さんは、精神に異常を来しながらも、信之の沢に対する心持を感知したと見え、はげしい嫉妬にかられては、沢の頸筋をつかんで殴ることさえ屡々《しばしば》ありました。然し沢は、何か野心を持って居たと見えて、ただ笑って居るだけで、少しも、つらいとも居にくいとも申しませんでした。これを見た信之は益々友江さんを憎
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