なことは無論誰でも行ひ得るといふ訳でなく、其の人の性質にも依《よ》り又練習にも依るであらうが、兎《と》に角《かく》人間にも動物に見る如《ごと》き冬眠状態の可能であることは疑ひ得ない。
話は前に戻る。既に旧約全書の「天地創成」の部分には、神がアダムを「深き眠り」に陥らしめ、一本の肋骨を抜き取つたことが書かれ(この肋骨からイヴは作られ、英国の文豪トーマス・ブラウンは、この事から女の悪口を言つて「女は男の曲りくねつた肋骨だ」と叫んだ。)ホーマーの詩オヂツセーの中では、へレンがユリツシーズの酒盃《しゆはい》の中に、エヂプト産の妄憂薬《ネーベンチー》を投げたことが書かれ、ヘロドトスはマツサゲテーが大麻を燃し、その烟を吸つていい気持になつたことを書き其他|猶太《ゆだや》の経典タルマツド中の「サムメ・デ・シンタ」、アラビアン・ナイト物語中の「バング」(大麻の類)を始め、狼毒(マンドラゴラ)、毒人参《ヘムロツク》(哲学者ソクラテスが死刑に処せられて服用したもの)ヘルボア、鶏毒《ヒヨス》などの麻酔薬は何れも東西両洋に亘《わた》りて、古代の人民に知られたもので、それ等に纏はる迷信も数多いが、茲には一々|
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