之《これ》を書き記すことは出来ないから、欧洲の文学などに最も屡々現はれて来る狼毒《マンドラゴラ》に関する迷信に就て述べて見ようと思ふ。
マンドラゴラは英語でマンドレークと称する。この植物は馬鈴薯《ばれいしよ》類に属するもので其の有効成分マンドラゴリンは、わが国に産する「きちがひなすび」の毒成分「アトロピン」と同じ作用を有するのであつて、往時人々は麻酔剤として用ひ、ことに屡々外科手術の際に応用した。たゞこの植物の形が丁度支那の人参《にんじん》と等しく人間の形をして居るために(即ち根が又をなして人の脚の形をして居る故《ゆゑ》)之に色々な奇怪な迷信が附せられるやうになつたのである。其の迷信の一つはこれに男性と女性があると信ぜられ、日本に於ける蠑※[#「※」は「むしへん」+「原」、読みは「ゲン」、第3水準1−91−60、92−3]《ゐもり》の黒焼と等しく所謂《いはゆる》「惚《ほ》れ薬《ぐすり》」として盛んに使用せられたことであり、その二は之を地より抜く際、物凄い叫び声を発し、其の声を聞いた者は皆気が狂ふといふ迷信である。従つて之を地から抜き取る際には、昔から犬を連れて来て犬に縛り附けて置いて
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