この暢草は香ひ草で、祭祀に当り、酒に和して地に注ぐと、気を高遠に達して神を降すの効ありと言はれて居た。印度《インド》にありては梨倶吠陀《リーグヴエダ》(印度古代の経典)の中に、ソーマ神《しん》の伝説がある。ソーマと称する植物の繊維から搾《しぼ》つた液(始めこの植物は婆楼那《バルナ》が天界の岩の上に植ゑて置いたもので、ある時一羽の隼《はやぶさ》が天上から盗んで来たものだと言はれて居る)に牛乳又は大麦の煎汁《せんじふ》を加へ、暫《しばら》く其《そ》の儘《まゝ》にして置くと、醗酵して人を酔はす働《はたらき》を生ずる。病む者が、之《これ》を薬として飲むと、四肢は強壮となり、病は去りて長寿を得ると信ぜられて居る。又一|度《たび》ソーマが腸に沁《し》み渡ると貧者も富者になつた様な気持になり、詩人は超人的の力を獲《え》る。よつて詩人はソーマを人格化して一個の神となし、ソーマ液の供物は火祭と共に梨倶吠陀に現はれた祭儀の重要な部分を占めて居る。ソーマ液の魅力は単に人間に作用するばかりではなくして天上の諸神も之を口にすると、打ち勝ち難い活力と永劫に滅びぬ生命とを得ることが出来、神々の間にはアムリタ(不老の
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