、規那《きな》、大麻《おほあさ》ヤラツパ、など諸多《いくた》の薬剤の使用を知つて居る。中にも矢毒は原始人類にとりて必要|欠《か》くべからざるものであり、又人間を毒殺するてふことの濫觴《らんしやう》とも見られぬでもない。ホーマーの詩「オヂツセー」の中には、ユリツシーズがアイラスに矢毒を要求することが書かれてあり、希臘神話の中にもパリスが毒箭《どくや》を放つてアキリーズを射殺すことが述べてある。ボルネオに現住するヂヤークと称する土人は長さ七尺、直径五分ばかりの吹管《すゐくわん》を用ひて毒矢を吹き放ち、アデンの附近に産するある毒物は其の附近に住む、ソマリーと称する蛮族により矢毒として今も使用せられて居る。
 毒の使用を知ると同時に、毒の恐ろしさを知つたのは自然の理であつて、従つて単純なる原始人類の頭は毒に関する幾多の迷信を生じ、それ等の迷信は時として現今の文明人の間にまで残され拡がつて居る。而《しか》して毒に関する迷信は凡そ二種類に大別することが出来、その一は即ち毒物そのものに纏《まと》ふ迷信であつて、其の二は即ち毒物ならぬ色々の物質を毒と思つて取り扱ふ迷信である。原始人類に共存せる偶像崇拝
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