》くアントニーとクレオパトラの艦隊は敗北し共に遁《のが》れ帰つたが途中アントニーはクレオパトラが死んだといふ偽報《ぎほう》を聞いて自殺する。女王は時に三十八歳であつた。オーガスタスはなほも慊《あきた》らずクレオパトラをローマに連れ帰らうとしたが、女王はアントニーの墓を訪ね、二人の侍女と共に墓室に閉ぢ籠り、オーガスタスに書を送つてアントニーと同じ墓に葬つてくれと請願した。程経《ほどへ》て、兵士共が女王の室の戸を開くと、女王は黄金の床の上に眠るが如く死んで居て、二人の侍女も虫の息であつた。
その死の原因はいまだに解けぬ。ある説によると墓室に閉ぢ籠つて居るうち、無花果《いちぢく》を盛つた籠《かご》を携へた男が通され、その籠の中に毒蛇が隠されてあつて、それに腕(胸といふ説もある)を噛ませて自殺したといひ、他の説によると、女王は予《かね》て花瓶の中に毒蛇を飼つて置き、金製の紡錘《つむ》でつついて怒らせ噛ましたといひ、第三の説によると空洞《うつろ》になつた鈿《かんざし》の中に毒を入れて常に髪に挿して居て、其の毒を仰いで死んだといふのである。毒蛇の説を反駁するものは、女王のやうに自ら美を誇つたもの
前へ
次へ
全27ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング