るオルフユーズの愛妻ユーリヂシーが毒蛇に脚を噛《かま》れて死に、従つて生ぜし楽人の哀話《あいわ》などを見ても、如何《いか》に蛇と原始人類との交渉の多かつたかを知るに足らう。
直接毒蛇に関した話ではないが、蛇《じや》に縁故があり且《か》つ西洋の文学書に度々《たび/\》引用せらるゝゴーゴンの伝説は、希臘神話中最も興味多き部分であるから、茲に少しく書いて置かうと思ふ。夏目漱石氏の「幻の盾《たて》」の中にもゴーゴンの頭に似た夜叉の顔の盾の表に彫《きざ》まれてある有様が艶麗《えんれい》の筆を以《もつ》て写されてある。「頭の毛は春夏秋冬《しゆんかしうとう》の風に一度に吹かれた様に残りなく逆立つて居る、しかも其一本々々の末《すゑ》は丸く平たい蛇の頭となつて、其《その》裂目から消えんとしては燃ゆる如き舌を出して居る。毛といふ毛は悉《こと/″\》く蛇で、其の蛇は悉く首を擡《もた》げて舌を吐いて、縺《もつ》るゝのも、捻《ね》ぢ合《あ》ふのも、攀《よ》ぢあがるのも、にじり出るのも見らるゝ」と漱石氏は書いて居る。実にゴーゴンの毛髪はかくの如き物凄いもので、其の顔も五体も普通の女子ではあるが、この外に黄金の翼
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