ていない所は殆《ほとん》ど無い。日本に於ても素盞嗚尊《すさのをのみこと》が八岐大蛇《やまたのおろち》を退治した話は周知のことであり、支那では三皇の一人《いちにん》庖犠氏《ほうぎし》が蛇身人首《じやしんじんしゆ》であつたと伝へられ、印度《インド》の神話とも見るべき梨倶吠陀《リーグヴエダ》の中にはセシアと称する千頭の怪蛇のことが記されてある。蛇は又一面に於て原始人類の崇拝の的となつて居たのであつて、蓋《けだ》し怖いものを崇むるのは自然の傾向であらう。旧約全書の始めに当り、蛇がイヴを誘惑する話は普《あまね》く人の知る所であり、ジエレミエー第八章にはコツカトリスなる怪蛇の名が出て来る。この毒蛇は又バジリスクとも称せられ、これに睨まれたのみで人は死ぬと言ひ伝へられて居る。
希臘《ギリシヤ》の神話の中には度々《たび/\》毒蛇の話が出て来る。アルゴスの都に近き古井戸の中にハイドラと称する九頭の水蛇《みづち》があつて屡々人畜を悩ましたのをハーキユリーズが退治する話、パアナツサスの山の麓《ふもと》に住んだパイソンといふ恐ろしき蛇をアポローが銀の弓と箭《や》を以《もつ》て殺す話、アポローの子にして楽人な
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