のであらう。
 エヂプトの世界最古の記録にも石を疾病《しつぺい》の治療に用ひたことが書かれ、欧洲では動物の体内から出た腸石、胆石等は憂鬱病《メランコリア》を予防すると言はれ、又多くの中毒(毒蛇に噛まれて起る中毒をも含む)を防ぐとも言はれて居る。殊《こと》に英国では矢《や》の根石《ねいし》が同様の目的に用ひられてある。宝石類が昔から病気予防のために「お守り」として用ひられて居ることは言ふまでもなく、ダイヤモンドは「平和を齎《もた》らし」「暴風を防ぐ」ものとして尊《たふと》ばれて居る。又蟇石と称する宝石は蜘蛛《くも》やその他毒性の動物に嚼《か》まれたとき、その疼痛を消すと伝へられて居る。然《しか》し現今《げんこん》でもさうであるが蛋白石《たんぱくせき》は昔から婦人は之《これ》を懸《か》けることを嫌つて居る。又ある一部の人々には真珠を持つて居ると命が危ないといふ迷信がある。有名な仏蘭西《フランス》の大喜劇作者モリエールは其の作「ラムール・メドサン」の中《うち》で、ジヨツス氏をして、「どんなに健康の衰へた青春の婦人でも、ダイヤモンドとルビーとエメラルドを懸けてやりさへすれば、必ず健康を恢復する
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