て置きたいのは、古来我国|及《および》支那で万病に霊効ありと唱せられて居る人参のことである。佐藤|方定《ほうじやう》は日本の神代《かみよ》に存した八薬の最初に仁古太《にこた》(人参)を挙げて居る。この人参は丁度マンドレークのやうに、人間の形に類似して居て「本草綱目」の中にも、「根に手足両目ありて人の如きもの神と為す」とあるが如く、この形のために霊効があるといふ迷信が生じて来たものらしい。殊《こと》に、支那にありては人参に関して荒唐な伝説があり、「抱朴子《はうぼくし》」には「人参千歳|化《くわ》して小児《せうに》となる」などといひ、マンドレークに於けると同じく、人間の如くに言語を発したり、又男女の性別があるものゝ如くに考へられたりした。人参中にはマンドレークの含有するやうな毒物はなく、近時二三の研究家が、そのうちから特殊の成分を取り出したといふが、勿論俗間に信ぜられて居るやうな霊効のある訳ではない。何れにしても、同じやうな形をした植物が、東洋と西洋とに於て、同じやうな迷信を生じたことは興味ある現象といはねばならぬ。
三 鉱物性毒と迷信
以上植物性の毒物に関する迷信の一斑を説いたか
前へ
次へ
全27ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング