ます」
「よし、そんなら説明に取りかゝろう」と、案外先生は楽に話しかけて下さった。「ゆうべ僕は、この二枚の紙片をにらんで、とうとう徹夜してしまった。だん/\推理を重ねていった後、比較的早く事件の底にかくされた秘密を知ったけれど、その確証をにぎるのに随分苦心した。
「僕は昨日君がかえってから、この二つの品即ち遺書と投書を、机の上にならべて、如何なる順序で研究すべきかを考えた。その結果、最初は先ず、心を白紙状態に還元して、果してこの二つの筆者が北沢その人であるかどうかを研究した。けれども、もはやそれには疑いの余地がなかった。いろ/\北沢の他の筆蹟とくらべて見たが、絶対に他の人であり得ないことがわかった。
「然らば、北沢は何故にかゝる計画を行ったか、何の目的でやったことかを次に研究した。これこそ謎の中心点で、すでに君と話し合っても見たが、遂に昨日は解決が出来なくて別れてしまった大問題だ。昨日も言ったとおり、遺書と投書と別々にしては、色々の目的が考えられるけれど、二つを合せるとたった一つの目的しか考えられなくなるのだ。従ってそのたった一つの目的をさがし出せば凡《すべ》ての事情が氷解するのだが、
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