持たない筈だ」
K君。まったく僕にはわからなくなってしまった。そうして、毛利先生にも、その時はまだ少しもわかっては居なかったのだ。
「この謎はとても短時間には解けぬよ。君はもう帰ってもよい。僕はこれからこの二品を十分研究して見ようと思う」
K君。
かくて僕は、可なりに疲労して家に帰ったが、先生から与えられた謎が頭にこびりついて、その夜はなか/\眠れなかった。僕は色々に考えて見た。はては文学者A氏の全集を繙《ひもと》き、その遺書の第一節の文章なり意味なりから、何か解決の手がかりは得られないかと詮索して見たが、結局何も得るところはなかった。
あくる日、睡眠不足の眼をこすりながら、教室へ行くと、先生はすでに教授室に居られた。その顔を見たとき、先生が徹夜して研究されたことを直感した。
「涌井君、遂に問題は解けたよ」
僕の顔を見るなり、先生はいきなり声をかけられたが、いつもの問題の解けた時のような、うれしさがあらわれて居なかったから、何か先生にとっては不愉快な解決だなと思った。
「解けましたか」
そう言ったきり、僕は次の言葉に窮した。「それは愉快です」とは、どうしても言えなかったのだ
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