りはありませんか」
「それはたしかに記憶して居ります」
「よろしゅう御座います。元の部屋へお帰り下さい」
こう言って先生は福間警部をよんで緑川を連れ去らせた。
「涌井君。君は昨日北沢家へ調べに行った時、福間警部に北沢がどんな風に死んだかを演《や》って見せたね」
「はあ」
「そうだろうと思った」
やがて福間警部が戻って来ると、
「福間君。白状というものは、こちらから教えてさすべきものでないよ。むこうの言うことを黙ってきけばいゝのだ」
「緑川が何か言いましたか」
「いま緑川に実演させたら、君が教えたとおりにやったゞけで本当のことをやらなかったよ。あんな飛び上り方なんて、まったく嘘だ。たゞ、横わってからは本式だった。本人も、飛び上ってから、身体を捩じてたおれるまでは、どうも興奮してよく覚えて居りませんと言いながら、横わった姿だけはっきり覚えて居るんだ。緑川の自白は虚偽だよ」
「それでは何故そんな虚偽の自白をしたのでしょう」
「それは、あとでわかるよ。未亡人をつれて来てくれたまえ」
間もなく黒い洋装の喪服を着た北沢未亡人が連れられて来た。眼の縁が際立って黒かったので、一層チャーミングに見
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