うに言われた。
「はあ」
「どんな」
そこで僕は、福間警部からきいた一切を物語ったが、一年前ならば、眼を輝かして聞かれたであろうに、而《しか》も自殺か他殺かという鑑定の結果によっては二人の生命が左右されるほどの重大な事件であるのに先生はたゞフン、フンといってうなずかれるだけで、悪くいえば、まるで他事《よそごと》を考えて居られるのではないかと思われるような、味気ない態度であった。僕が語り終ると、
「それで、鑑定の事項は?」
「三ヶ条です。第一は胃腸の内容から、死の起った時間を決定すること。第二は現場及び遺書の血痕が自然のものか、又は人工的に按排《あんばい》された形跡があるか否や、第三はピストルが、どれほどの距離で発射されたかと言うのです」
「その遺書をそこに持って居るかね?」
僕は紙袋に入れられた遺書を取り出して、先生に差出した。それは二つに折られた水色のレター・ペーパーで、外側には数個の血痕が附着し、中側にペンで「或旧友へ送る手記」の最初の一節が書かれてあった。くどいようであるけれども、後の説明のために、その全文を書いて置こう。
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誰もまだ自殺者自身の心理を
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