て繃帯を取ることになりました。私はその日をどんなに待ったことか、繃帯を取り除いて若し残った眼が見えないようだったら、それこそ立派な緑内障の証拠で、患者に対する復讐心が一層満足させられるばかりでなく、教諭に対する復讐のチャンスも得られる訳ですもの。
 その朝、私はS教諭に向って、患者の健眼が痛み出した旨《むね》を告げました。すると、教諭は顔を曇らせて、
「またやられたのかな」と言いましたが、その日は何となく沈んだ顔をして居たので、私を罵りませんでした。
 やがて私は他の助手や看護婦たちと共に、教諭に従って患者の室に行きました。患者は以外に元気で、早く繃帯を取ってくれとせがみました。私は患者をベッドの上に起き直らせ、亢奮のために顫える手をもって、繃帯を外《はず》しにかゝりました。
「繃帯を取ってから、少しの間はまばゆいですよ」とS教諭は患者に注意しました。
 さて、繃帯を取り終ると、申す迄もなく剔出した方の眼にはヨードフォルムガーゼが詰められてありまして、美しい容貌も惨憺たるものでした。患者は、さらけ出された方の眼でジッと前方を見つめ、一つ二つ瞬きをして何思ったかにっこり笑って言いました。
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