の眼の前から後頭部にかけ房々とした黒髪を包んで、ぐる/\繃帯を致しました。それが済むと、まだ麻酔から覚めぬ患者を病室へ運び去らせて跡片附を致しましたが、私は予期した結果の起らなかったことに、非常な失望を感じました。諸君は私の計画がやっぱり痴人の計画に終ったと思われるでしょうが、その時私はまだ/\一縷の望を持って居たのです。というのは、彼女の残された健眼も、ことによると緑内障に冒されるかも知れぬと期待して居たからであります。
 果して、私の期待したことが起りました。患者は手術後、程なく無事に麻酔から覚めて、元気を恢復し、その日は別に変ったことはなかったですが、翌日から左眼[#「左眼」に傍点]に痛みを覚えると言い出したのであります。剔出した右の眼のあとが痛むのは当然ですが、左の眼の痛むのは緑内障が起りかけたのだろうと考えて、私は心の中で、うれしそうに、チャンスだ、チャンスだと叫びました。
 然し、S教諭に対する復讐は? 諸君、若し、左の眼も緑内障にかゝったならば、もう一度眼球剔出の手術があるべき筈です、私は其処に希望をつなぎました。何事もチャンスですよ、諸君!
 愈《いよい》よ三日目になっ
前へ 次へ
全15ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング