出来ず、やはり自白を待たねば罪を決定することが出来ません。ところが私の予期に反して、死体を見せただけで自白した真犯人は一人もありませんでした。更に又、頗る物足らなかったのは、真犯人であり乍《なが》ら、死体を見ても心臓運動や呼吸運動に少しの変化もあらわれぬもののあったことです。要するに、死体を見せるという方法は、私の望んで居る効果をあげることが出来なかった訳です。

       三

 そこで私は第二の方法として、容疑者を法医学教室へ連れて来て、その眼の前で死体解剖を行って見せたならば、恐らく所期の結果を得《う》るだろうと考えました。どうせ人を殺すほどの人間ですから解剖を見たぐらい、びく[#「びく」に傍点]ともすまいと考えられるのが普通ですけれど、人を殺す場合には多くは精神が異常に興奮して、いわば夢中になり易く、兇行の後一旦|平常《へいぜい》に帰ったときは、たといはかり知れぬ憎悪のために殺したのであるとしても、眼前で、被害者の内臓をさらけ出されては、恐怖のために、自白するに違いないと考えたのであります。
 果してこの方法によって、二三の容疑者を白状させることが出来ました。六十歳になる高
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