死体が息を吹き返して、丁度、ポオの小説に書かれてあるように、「貴様が犯人だ!」と叫びはしないかという恐怖に襲われますから、時にはそれがために、その場で自白をするにちがいありません。之に反して、容疑者が真犯人でなかったならば、たとい死体を見て一瞬間心臓の鼓動がはげしくなっても、決して恐怖心を起しませんから、ミュンスターベルヒの心理試験とはちがって、無辜のものを有罪にする患《うれい》は決してない筈であります。ミュンスターベルヒの方法は、兇行に関係した言葉を容疑者に聞かしめて、その反応を見るのですが、数々の言葉の中には真犯人でない人を興奮させるものもありましょうから、誤謬《ごびゅう》に陥り易い道理です。
そこで、私は、司法当局の人々と相談して、有力な容疑者を捕えて、而も、直接証拠のあがらぬ場合には、法医学教室へ連れて来て、死体を見せ、呼吸計、脈搏計を以て、生理的の反応を調べることに致しました。すると果してこの方法は、ある程度まで成功しました。ことに有力な容疑者が二人ある場合には、明かに真犯人を区別することが出来ました。けれど、反応が明かにあらわれただけでは、それをもって直接証拠とすることが
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