ひろげたといった方が適当に思われました。
御承知のとおり、身体に何等かの肉体的異常を持つものは、男でも女でも幼い時分から一種のひがみ[#「ひがみ」に傍点]を持ち、だんだん犯罪性を増して行くもので、極端になると、殺人狂になり了《おわ》ります。それはつまり人間全体に対して一種のはげしい憎悪を感ずるからであります。かような不具な男が青春の頃になりますと、性的の刺戟を受けて、女子に対して一種の反抗心を持つに至ります。そうして、一旦女子を恋して、その恋が受け入れられると、こんどは、女子を熱愛しその代りに、激しい、むしろ病的といってよい位の嫉妬心を起します。それがため、いろいろの邪推を起して遂には女を殺します。そうして、殺した後に、邪推だったということがわかると悔恨の念もまた甚だしいのです。沙翁《さおう》の「オセロ」を御承知でしょう。黒人オセロは、イヤゴーの讒言《ざんげん》によって、妻デズデモナを殺しますが、後に邪推に過ぎなかったことがわかると、悔恨のあまり自殺しました。尤も同じ不具者でも、殺人狂にまでなったものは、たとい嫉妬によって人を殺し、邪推であったとわかっても、オセロのように後悔しないの
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